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[野迫川村のマージナルな森](第5話)ことほぎの植樹体験会
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- 小泉 潮(野迫川村役場)

春ここに生るる朝の日をうけて山河草木みな光あり(佐佐木信綱)。
新しい春、山も河も草も木もすべてが朝の新鮮な光を受けて輝いている――。 新年の訪れを愛でるこの名歌が、ふと頭に浮かびました。
そんななか、全国各地から村の人口の4分の1近い人々が集い行われた「多種共存の森づくり事業」の植樹体験会。それは新たなスタートを切った村の森づくりを「ことほぐ」にふさわしい、かけがえのない時間となりました。
野迫川村は令和6年10月、「一般社団法人more trees」(東京都港区)と「森林保全および地域活性化に関する連携協定」を締結。 令和7年度より、手入れ不足の人工林や植生回復が困難な斜面地において、樹種や土地の特性を生かし、その場本来の植生群落の再生を目指す「多種共存の森づくり事業」を進めています。
この事業では、都市部の企業や団体から施業費用の支援を受けるとともに、植栽活動の一部を協働で行います。ドラッグストア大手「ウエルシアホールディングス」の労働組合「ウエルシアユニオン」(茨城県つくば市)を招き、植樹体験会を開催しました。
当日は、宮城から広島まで全国各地から65人が参加。 植樹は約0.03ヘクタールの斜面の一角で行われ、森林組合職員らの手ほどきを受けながら、参加者は掘った穴に苗木を入れ、落ち葉が入り込まないよう注意しつつ、丁寧に土をかぶせました。
空間の骨格となる高木・ケヤキをはじめ、季節感を演出するヤマザクラやオオモミジ、花や実で鳥類・昆虫類を呼び込むガマズミやムラサキシキブなど、22種125本の多彩な樹種が植えられました。
植え付けに先立ち、吉井善嗣村長は平成23年(2011年)に発生した紀伊半島大水害に触れ、「スギやヒノキだけの単純な森が被害を助長した面もある。多種共存の森づくりを進め、防災機能の向上や生物多様性の確保につなげたい」とあいさつ。
フォレスターである私からは、植樹の目的や苗木の特徴について説明し、 地域の立地環境や遷移段階に応じて多様な樹種を混植する「自然配植技術」により、「それぞれの木が、それぞれの役割を持ち、互いに支え合いながら生きていく森となる」と、その意義をお伝えしました。
また、採取した広葉樹の葉脈を絵の具で写し取って記念プレートを作る催しも行われ、 参加者は森と人との新たな関係づくりを体感しました。
会社員の女性(埼玉県川口市)は、 「圧倒的な自然の存在感に驚かされ、ゆったりとした時の流れに癒やされた。近い将来、長男と一緒に大きく育った木を見に来たい」と語り、 薬剤師の男性(大阪府和泉市)は、 「見るだけでなく、触れて、歩いて、音を聞いて、自然との一体感を味わえた。樹木という自然資源の大切さを再認識できた」と話していました。
春ここに生るる森へ――。
人の手がそっと土に触れ、苗木が光を受けて立ち上がる。その小さな芽吹きは、遠い未来の風景を静かに描きはじめました。ことほぎの言葉とともに植えられた森が、やがて誰かの心を支える依り代となり、季節を超え、命の記憶をつなぎますように。
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