Story

私が野迫川村に通う理由。西宮の司法書士が続ける、二拠点生活物語。

Date
Writer
吉岡大地(よしおか合同事務所)

※本記事は、2025年に奥大和移住・定住連携協議会が運営する「奥大和ライフジャーナル」に掲載された記事を転載したものです。

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私は兵庫県西宮市で司法書士として仕事をしています。司法書士という職業は、日常を生活するうえではあまり馴染みがないかもしれませんが、不動産や会社の登記、相続や遺言の手続き、成年後見、債務整理など、人々の暮らしや財産、事業の節目を法的に支える仕事です。

毎日多くの依頼者に向き合い、誰かの人生にとって欠かせない節目に寄り添えることに、地味ではありますが大切な役割を担っていると自負しています。

しかし、街で暮らし日々の仕事をしていると、気づかないうちにどうしても心身が凝り固まってしまいます。そんな私の感覚を解きほぐし、新しい空気を送り込んでくれるのが野迫川村です。ここは父の実家があり、私にとっての「ルーツ」であり「心の拠り所」でもあります。

野迫川で育った父は、西宮で司法書士・行政書士として仕事を始め、現在は私と共に合同事務所を営み、その傍ら、週末には故郷に戻り、山の管理や畑仕事をする日々を送っています。

父が子どもの頃の野迫川の様子

西宮と野迫川を往復し、双方に根を張って生きる父の姿は、私にとって一つの指針であり、未来の自分を映すモデルでもあります。

そんな私にとって、野迫川の記憶は幼い頃に遡ります。

お盆になると親族が集まり、夕刻になると祖父が玄関先でよく語ってくれました。先祖の話、村の話、仕事の話。幼い自分にはわからない話が多かったように思いますが、それでも、毎日決まった時刻に流れる素朴な村内放送のメロディ、夜に響く虫の声、家の前の川のせせらぎと相まって、地域や先祖と自分との関係性は幼心に植え付けられたようです。

いつだったか、祖父・父・私の三人で山を歩いたときの張りつめた空気と、同時に感じた何とも言えない誇らしさは今も忘れられません。

最近では、私の子どもたちも野迫川に連れて行くようになりました。川で遊び、山道を這い、畑で土に触れる。都会では味わえない環境を全身で楽しむ姿に、世代を超えてつながる大きな循環を感じます。祖父から父へ、父から私へ、そして私から子どもたちへ。野迫川は確かに、私たちの血の中に流れているのだと実感します。

村の人々との交流もまた、都会とは違った感情を教えてくれます。誰かが困れば声をかけ、作業を手伝い合い、実りを分かち合う。その当たり前の営みを、子どもたちが見て体験してくれる様子を見ながら一緒に楽しんでいます。

私にとって野迫川で過ごす時間は、単なる休息ではありません。例えば山を歩くとき、無意識に全身の感覚を働かせています。「この石は滑らないか」「いつもと違うこのにおいは何だろう」なんてことを考えながら、一歩ごとに判断を重ね、自然と集中しています。つまるところ、山や川、土の上を歩くという営みは、私の仕事にもつながっているのです。

司法書士は書類の細部を確認し、微細な違和感を感じ取る職業です。自然の中で五感を研ぎ澄ますことは、その感覚を養い直し、忘れがちな事象に新たな気づきを促されるなど、西宮の事務所に戻ってからの仕事にも確かな力を与えてくれます。

また、西宮だけの暮らしでは実現しようもないのが畑仕事です。種をまき、あるいは苗を植え、雑草を刈り、成果を得る。その一つひとつが新鮮で、充実した時間です。

今は野菜や果物づくりが中心ですが、いずれは米づくりにも挑戦したいと考えています。自分の手で田を耕し、収穫の喜びを味わう。そんな日を楽しみにしています。と、そんな夢も見ますが、実際は失敗の連続です。刈っても刈っても背を伸ばす雑草に愕然とし、何度も何度も侵入する鹿や猿にうんざりします。

動物と人との距離が近い野迫川で生活する以上、害獣対策の現実にも向き合わざるを得ません。都会にいると考えもしない課題ですが、村では切実な問題です。

狩猟は単に捕獲することではなく、自然と人の営みを両立させるための知恵であり責任でもあると考え、最近「狩猟免許(罠)」を取得し、少しずつ実践を重ね、その問いに向き合っています。

野迫川村の魅力を少しでも外へ伝えたいと思った私は、SNSでの発信や身近な人への村の紹介をしつつ、はたまた将来的には野迫川村への旅行ツアーもできるように地域限定旅行業務取扱管理者という資格も取得しました。

これまでにいくつかのイベントを企画させてもらいましたが、例えば村の仲間たちと一緒に実施したアマゴつかみ体験では、村外から来てくれた家族連れの方々に、自分で捕まえたアマゴをさばき塩焼きで食べてもらい、川遊びを楽しんでもらいました。

子どもたちの歓声や、自然の恵みに目を輝かせる参加者の姿を見て、企画してよかったと心から思いました。他のイベントも集客こそ苦労はしますが、やって良かったと思います。

とはいえ、私なんかが新しいイベントを作らずとも、村にはもともと魅力あふれる催しや伝統がたくさんあり、その一つひとつに力があります。これまで積み重ねられてきた村の文化そのものであり、野迫川へのアクセスの難しさはあっても、そこを越えて訪れる価値があると感じていますし、私も少しでも外の人に伝えるお手伝いができればと願っています。

私の二拠点生活は決して派手なものではありません。時間のやりくりが大変なときもあります。畑では失敗ばかり、罠を仕掛けても思うようにいきません。それでも、不器用でも続けていくことで、自分の中に確かな変化を感じています。

自然の中に身を置くことは、効率や成果だけを追い求める日常とは違い、失敗や無駄の中にこそ学びや豊かさがあるのだと気づかせてくれます。世代を超えた営みの中で、野迫川という場所はこれからも私を育て続けてくれるのです。

司法書士として西宮で働きつつ、野迫川で季節を全身で感じる。そうしながら、先祖や父がつないできた命と土地の記憶を、私もまた子どもたちに手渡していきたい。そして、これからもこの村と共に歩み、この地の魅力を伝え、未来を見届けたいと思っています。

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